車同士の接触や駐車場でのこすり傷など、けが人がいない物損事故では「保険会社を通さず、その場で話し合って終わらせたい」と考える人も少なくありません。
たしかに、損害が小さい事故であれば、直接和解によって早く解決できる場合もあります。
しかし、修理費や過失割合、代車費用などを十分に確認しないまま合意すると、あとから「もっと慎重に進めればよかった」と後悔するおそれがあります。
この記事では、物損事故の直接和解の基本から、危険といわれる理由、後悔しないための進め方まで、わかりやすく解説します。
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物損事故の直接和解とは?基本的な仕組みを解説
この章では、物損事故における直接和解がどのようなものかを整理します。まずは、保険会社を通す示談との違いを理解しておくことが大切です。
保険会社を通さず当事者同士で話し合うこと
物損事故の直接和解とは、事故を起こした人と被害を受けた人が、保険会社を通さずに損害の負担について話し合うことです。
たとえば、駐車場で相手の車に軽くぶつけてしまい、「修理代だけ払ってくれればいい」と言われた場合に、当事者同士で金額や支払い方法を決めるケースが考えられます。
一見すると簡単に解決できそうですが、交通事故では事故状況の見方が人によって変わることがあります。
その場では納得したつもりでも、あとから修理費や責任の割合でもめることがあるため、直接和解は慎重に進める必要があります。
修理費や代車費用などの物の損害を決めること
物損事故で話し合う内容は、主に車やバイク、自転車、建物、ガードレールなど、物に生じた損害です。
車の場合は、修理費だけでなく、
- 修理中に使う代車費用
- レッカー代
- 事故車として価値が下がる評価損
などが問題になることもあります。
小さな傷に見えても、バンパーの内側やセンサー部分が壊れていると、修理費が想像以上に高くなることがあります。
そのため、見た目だけで「これくらいなら数万円で済むだろう」と決めてしまうのは危険ではないでしょうか。
示談書を作ると合意内容が証拠になること
直接和解をする場合でも、口約束だけで終わらせるのは避けるべきです。
示談書を作っておけば、
- 事故日
- 事故場所
- 車両番号
- 支払金額
- 支払期限
- これ以上請求しない範囲
などを後から確認できます。
反対に、書面がないと「そんな約束はしていない」「支払いはもう少し待ってほしい」と言われたときに、合意内容を証明しにくくなります。
物損事故の直接和解では、合意そのものよりも、合意内容をきちんと形に残すことが重要です。
物損事故で直接和解を選ぶ人がいる理由
この章では、なぜ保険会社を通さずに直接和解を選ぶ人がいるのかを説明します。理由を知ることで、直接和解が向いている場面と注意すべき場面が見えやすくなります。
早く解決したいから
物損事故で直接和解を選ぶ大きな理由は、早く終わらせたいという気持ちです。
保険会社を通すと、
- 事故状況の確認
- 見積書の提出
- 過失割合の調整
など、いくつかの手続きが必要になります。
仕事や家庭で忙しい人にとっては、そのやり取りを負担に感じることもあるでしょう。
ただし、早く終わらせることだけを優先すると、必要な費用を見落としたり、相手の支払いが遅れたりする危険があります。
保険の等級が下がるのを避けたいから
加害者側が直接和解を希望する理由として、自動車保険の等級が下がるのを避けたいという事情があります。
保険を使うと、翌年以降の保険料が高くなる場合があるため、少額の修理費なら自分で払いたいと考える人は少なくありません。
この考え方自体が必ず悪いわけではありませんが、保険を使うかどうかは、損害額がはっきりしてから判断するのが安全です。
日本損害保険協会も、交通事故が発生した場合には加入している保険会社へ事故状況などを連絡する流れを案内しています。
小さな傷やへこみで大ごとにしたくないから
駐車場でのこすり傷やドアミラーの接触など、軽い事故では「警察や保険会社に連絡するほどではない」と感じる人もいます。
特に、相手が近所の人や同じ職場の人であれば、できるだけ大ごとにせず終わらせたいと思うのも自然です。
しかし、物損事故であっても警察への届出をしなければ、交通事故証明書を取得できない可能性があります。
交通事故証明書は自動車安全運転センターで申請できる書類であり、後日の保険手続きや事故の事実確認で重要になることがあります。
相手との関係を悪くしたくないから
物損事故の相手が
- 友人
- 知人
- 近所の人
- 会社の同僚
などの場合、保険会社を入れることで関係が悪くなるのではないかと心配する人もいます。
たしかに、身近な相手との事故では、できるだけ穏やかに話し合って解決したいと考えるのは自然なことです。
しかし、関係を悪くしたくないからといって、必要な確認を省いてしまうと、かえって後から不満が残ることがあります。
人間関係を守るためにも、金額や支払い時期などはあいまいにせず、書面で残しておくことが大切です。
物損事故の直接和解が危険といわれる主な理由
この章では、物損事故の直接和解がなぜ危険といわれるのかを解説します。直接和解そのものが必ず悪いわけではありませんが、確認不足のまま進めると大きなトラブルにつながります。
あとから修理費が増えても請求しにくいから
物損事故では、事故直後に見えている傷だけで損害額を判断してしまうことがあります。
しかし、車の修理では、外から見える傷よりも内側の部品に大きな損傷が出ているケースがあります。
たとえば、バンパーのへこみだけに見えても、内部のセンサーや取り付け部分まで壊れていれば、修理費は大きく上がります。
先に「修理代は3万円で終わり」と合意してしまうと、あとから見積もりが10万円になっても追加で請求しにくくなるかもしれません。
修理費が確定していない段階で金額を決めることは、直接和解で後悔しやすい代表的な原因です。
過失割合でもめやすいから
物損事故では、どちらがどのくらい悪いのかを示す過失割合が問題になります。
信号待ちで後ろから追突されたような事故であれば比較的わかりやすいですが、交差点や駐車場での事故では判断が難しいこともあります。
自分は相手が悪いと思っていても、相手は「そちらにも注意不足があった」と考えているかもしれません。
過失割合が決まらないまま直接和解を進めると、修理費を誰がどれだけ払うのかで意見がぶつかりやすくなります。
特に、双方の車が動いていた事故では、一方だけが100%悪いと簡単に決められない場合もあるため注意が必要です。
代車費用やレッカー代を見落としやすいから
物損事故の損害というと、車の修理費だけを考えがちです。
しかし、実際には修理工場まで車を運ぶレッカー代や、修理中に使う代車の費用が必要になることがあります。
通勤や子どもの送迎で車を使っている人にとって、修理中に車が使えないことは大きな負担です。
事故の相手と修理費だけで合意してしまうと、あとから代車費用を請求したときに「そこまでは聞いていない」と言われる可能性があります。
直接和解では、修理費以外にどのような費用が発生するのかを最初に確認しておくことが重要です。
評価損や経済的全損の判断が難しいから
事故によって車を修理できたとしても、事故歴がつくことで車の価値が下がる場合があります。
このような価値の下がり分は、一般的に評価損と呼ばれます。
ただし、評価損が認められるかどうかは、
- 車の年式
- 走行距離
- 修理内容
- 事故前の状態
などによって変わります。
また、修理費が車の時価額を上回る場合には、経済的全損として扱われることもあり、単純に修理費全額を払ってもらえるとは限りません。
この判断は専門的な知識が必要になるため、当事者同士だけで正しく決めるのは簡単ではないでしょう。
口約束だけでは支払いを受けられないおそれがあるから
直接和解で特に注意したいのが、口約束だけで終わらせてしまうことです。
事故現場では相手が「必ず払います」と言っていても、後日になると連絡が取れなくなることがあります。
また、支払いを一部だけして残りを払わない、支払期限を何度も延ばすといったトラブルも考えられます。
書面がなければ、どの金額を、いつまでに、どの方法で支払う約束だったのかを証明しにくくなります。
直接和解をするなら、信頼できそうな相手であっても、必ず示談書などの文書を作成するべきです。
直接和解で後悔しやすいケース
この章では、物損事故の直接和解で実際に後悔しやすい場面を紹介します。自分の状況に近いものがある場合は、安易に合意せず、一度立ち止まって確認することが大切です。
事故現場でそのまま示談してしまったケース
事故直後は、誰でも焦って冷静な判断がしにくくなります。
相手から「今ここで解決しましょう」「警察には言わなくていいですよ」と言われると、早く終わらせたい気持ちからそのまま応じてしまう人もいます。
しかし、事故現場では車の損傷の全体像も、正しい修理費も、過失割合もはっきりしていません。
その状態で示談してしまうと、後から不利な内容だったと気づいても、やり直しが難しくなるおそれがあります。
事故現場では示談を急がず、まず警察への連絡、相手情報の確認、写真撮影を優先した方が安心です。
修理見積書が出る前に金額を決めたケース
物損事故の直接和解でよくある失敗が、修理見積書が出る前に支払金額を決めてしまうケースです。
事故直後に見える傷が小さいと、「これくらいなら数万円で直るだろう」と考えてしまうかもしれません。
しかし、実際に修理工場やディーラーで確認してもらうと、部品交換や塗装、センサー調整などが必要になり、想像より高額になることがあります。
先に低い金額で合意していると、あとから追加費用を請求しても、相手が応じてくれない可能性があります。
修理費について話し合うときは、必ず見積書を取ってから金額を決めることが大切です。
相手が任意保険に入っていないケース
相手が任意保険に入っていない場合、直接和解は特に慎重に進める必要があります。
保険会社が間に入らないため、修理費や代車費用などを相手本人から直接支払ってもらうことになります。
相手に支払い能力があれば問題が少ない場合もありますが、まとまったお金をすぐに用意できない人もいるでしょう。
分割払いを提案されることもありますが、途中で支払いが止まる危険も考えられます。
相手が任意保険に未加入の場合は、口約束で済ませず、支払期限や分割回数まで文書に残すことが欠かせません。
相手があとから連絡を無視するケース
事故現場では相手が丁寧に対応してくれても、後日になって態度が変わることがあります。
電話に出ない、メッセージに返信しない、住所を教えてくれないといった状況になると、話し合いは一気に難しくなります。
特に、事故直後に
- 相手の氏名
- 住所
- 電話番号
- 車両番号
- 勤務先
- 保険情報
などを確認していない場合、連絡を取る手段が限られてしまいます。
また、相手が「そんな事故は知らない」と言い出した場合、事故の証拠がなければ対応に時間がかかるかもしれません。
連絡無視のリスクを減らすためにも、事故現場では相手情報を確認し、車の損傷や事故場所の写真を残しておくことが重要です。
ディーラーや整備工場の見積もりを確認しなかったケース
相手から「知り合いの工場なら安く直せる」と言われ、その金額だけで和解してしまうケースも注意が必要です。
もちろん、安く修理できること自体は悪いことではありません。
しかし、修理内容が十分でなかったり、純正部品ではなく中古部品だけで直す前提になっていたりすると、あとから不満が残る可能性があります。
車の安全装置やセンサーが関係する事故では、見た目だけきれいに直っても、本来必要な調整が終わっていないことも考えられます。
修理先や見積もりは相手任せにせず、自分でもディーラーや信頼できる整備工場に確認することが大切です。
直接和解を進める際の正しい手順
この章では、どうしても物損事故で直接和解を進める場合の基本的な手順を解説します。大切なのは、急いで終わらせることではなく、あとからも説明できる形で進めることです。
警察に連絡して交通事故証明書を取れる状態にする
物損事故であっても、まずは警察に連絡することが大切です。
けが人がいない事故では「警察を呼ばなくてもいいのでは」と思う人もいますが、道路上で交通事故が起きた場合、事故の報告は重要な手続きです。
警察への届出をしておけば、後日、交通事故証明書を取得できる状態になります。
交通事故証明書は、事故があったことを確認するための書類であり、保険会社への相談や相手との話し合いで役立つ場面があります。
その場で直接和解するつもりでも、警察への連絡だけは省かないようにしましょう。
ソニー損保や東京海上日動など自分の保険会社に相談する
直接和解を考えている場合でも、自分が加入している保険会社には早めに相談した方が安心です。
ソニー損保や東京海上日動などの自動車保険に加入している場合、事故受付や相談窓口で今後の流れを確認できることがあります。
保険会社に連絡したからといって、必ず保険を使わなければならないわけではありません。
保険を使うか、自分で支払うかは、修理費や翌年以降の保険料への影響を確認してから決められる場合もあります。
「保険を使いたくないから連絡しない」のではなく、「保険を使うか判断するために相談する」と考えるとよいでしょう。
修理工場やディーラーで見積書を取る
直接和解で金額を決める前に、修理工場やディーラーで見積書を取ることが欠かせません。
見積書には、
- 交換が必要な部品
- 板金や塗装の内容
- 工賃
- 消費税
などが書かれます。
この書類があれば、相手に対して「なぜこの金額が必要なのか」を説明しやすくなります。
反対に、見積書がないまま金額を伝えると、相手から「高すぎる」「本当に必要な修理なのか」と疑われるかもしれません。
直接和解では、感覚で金額を決めず、見積書という客観的な資料をもとに話し合うことが大切です。
過失割合と支払い方法を文書で確認する
修理費がわかったら、次に確認すべきなのが過失割合と支払い方法です。
たとえば、修理費が20万円でも、相手の過失が100%なのか、自分にも20%の過失があるのかによって、請求できる金額は変わります。
双方に過失がある事故では、自分の車の修理費だけでなく、相手の車の修理費についても考える必要があります。
また、支払い方法については、
- 一括払いなのか
- 分割払いなのか
- 銀行振込なのか
- 現金手渡しなのか
をはっきり決めておきましょう。
現金で受け取る場合は、受け取った日付と金額がわかる領収書を作っておくと安心です。
過失割合と支払い方法があいまいなままだと、直接和解は後からもめやすくなります。
示談書に事故日や車両番号や支払期限を書く
直接和解をする場合は、合意内容を示談書として残しておきましょう。
示談書には、
- 事故日
- 事故場所
- 当事者の氏名と住所
- 車両番号
- 事故の内容
- 損害額
- 支払金額
- 支払期限
などを書きます。
さらに、支払いが完了した後に追加請求をしない範囲を決めておくことも重要です。
ただし、修理費がまだ確定していない段階で「今後一切請求しない」と書いてしまうと、あとから追加損害がわかっても請求しにくくなります。
示談書は自分を守るための書類ですが、内容をよく考えずに作ると不利になることもあります。
不安がある場合は、署名や押印をする前に、保険会社や専門家に内容を確認してもらうとよいでしょう。
不安がある場合は弁護士や交通事故紛争処理センターに相談する
相手との話し合いが進まない場合や、金額に納得できない場合は、無理に直接和解を進める必要はありません。
- 過失割合
- 評価損
- 経済的全損
- 代車費用
などで意見が分かれると、当事者同士だけでは解決が難しくなることがあります。
そのようなときは、弁護士に相談する方法があります。
自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、弁護士への相談費用や依頼費用の負担を抑えられる場合もあります。
また、交通事故に関する紛争を扱う相談機関に相談することも選択肢のひとつです。
少しでも不安があるなら、相手に遠慮して自分だけで抱え込まず、第三者の力を借りることが大切です。
まとめ|物損事故の直接和解は危険?注意点を理解して進めよう
物損事故の直接和解は、保険会社を通さずに当事者同士で話し合い、修理費や支払い方法などを決める方法です。
小さな事故であれば早く解決できる場合もありますが、
- 修理費の増加
- 過失割合の争い
- 代車費用の見落とし
- 支払いトラブル
などの危険があります。
特に、事故現場でそのまま示談することや、修理見積書が出る前に金額を決めることは避けた方がよいでしょう。
直接和解を進める場合でも、警察への連絡、保険会社への相談、修理見積書の取得、示談書の作成は欠かせません。
物損事故の直接和解で後悔しないためには、「早く終わらせること」よりも「あとから説明できる形で残すこと」を優先する必要があります。
相手が知人であっても、少額の事故であっても、お金が関係する以上、あいまいな約束はトラブルの原因になります。
不安がある場合は、
- 保険会社
- 弁護士
- 交通事故に詳しい相談機関
などに早めに相談し、自分にとって不利な合意をしないように注意しましょう。
物損事故は突然起こるものですが、正しい手順を知っていれば、落ち着いて対応しやすくなります。
直接和解を選ぶかどうかは、損害額や相手の対応、保険の内容を確認したうえで、慎重に判断してみてはいかがでしょうか。